スカッシュの神様外伝。001

森本雄大

　「決まった〜」全日本選手権史上最も年の差の離れた決勝戦、「ゲームを終了した途端２人ともコートで大の字になりました。すごい試合でしたね」アナウンサーの言葉に応えて解説者が言った「本当に死闘でしたね！過去にも幾度となくありましたが、それらに比べてもひけをとらないスゴイ戦いでした。」

　５ゲーム全てがセッティングという過去に例のないスコアだった。かたや36才今年限りでい現役引退を表明しているベテランとかたや13才にして全日本のジュニアの頂点に立ち、16才で全日本の決勝までのぼりつめたスーパージュニア。

　それぞれの「夢」と「約束」を果たすため、彼らは最高の輝きを放った。天井を見つめながら36才のベテランはつぶやいた「大空ありがとう！俺は最高に幸せだよ。」

　スーパージュニアの目からは涙が溢れ出した。今までに味わったことのない気分であったのは間違いない。

　ヒーローインタビューを受けたのはベテラン選手だった。「どうですか今の気分は？」アナウンサーがマイクを向けた。「最高です。今まで応援していただいた方、サポートしてくれた方、今日観戦していただいた方に感謝したいです。本当にありがとうございました。」目にはうっすらと涙がにじんできた。

　「それからこれだけは言わせて下さい。大空ありがとう俺やったぞ〜」、「今日はコーチの新堂大空選手は世界ツアー大会のために来られていませんが、きっと大喜びするでしょうね？」、「あいつのことだからおじさんやっと優勝したの！？遅すぎたけど出来の悪い弟子にしてはよくがんばったね！と言うかもしれません。」

　「森本雄大選手がスカッシュを始めたのは確か25才からで、大空選手と出会ったのが29才、それから全日本選手権優勝が36才ですね、今までかなり努力したと多くの聞きますが？」

　「大空に比べれば半分もできていないかもしれませんが、自分なりにはかなりがんばってきました。がんばらないとそして努力しないと絶対全日本選手権のような大きな大会で優勝はできません。

　僕の師匠の大空は天才と呼ばれますがおそらく他の全日本選手権上位クラスの選手と比較しても2〜3倍以上はトレーニングをしていました。特にスカッシュのプロになってからはほとんど寝てる時と食べている時以外はスカッシュの上達に必要なことをしてました。

　僕は強さというのは才能よりも努力が勝ると信じています。才能があるというのも能力を最大限アップしてきたそれまでのその人の生き方や努力の結果だと思います。もちろんそういった人は当たり前のことをしているだけで必ずしも努力と思わないかもしれませんが。」更に話しを続ける。

　「僕は普通のサラリーマンなのでそこまでは出来ませんが可能な限りは大空のトレーニングに付き合ってました。朝5時からの走り込みはサラリーマンの僕にはきつかったです。並の陸上選手よりも走っていたでしょうね。

　
　ストイックでまるでプロボクサーって感じです。夜も厳しい練習でしたが上手くなることや結果がでることは楽しかったです。だから今までやってこれました。大空は昼間も練習ですからもし彼と同じ年齢で能力が上回っていても勝てない相手でした。

　本当に大空と出会わなかったらただの運動不足のおじさんで終わっていたと思います。特に僕のように始めるのが遅い人、それまでにスカッシュに生かせる貯金のない人は何倍も練習しないと量で追い付けません。

　でも僕のようなやつでもがんばれば全日本チャンピオンも夢でないことが証明できて嬉しいです。」